【シビれる文章】「ワーカーズ・ダイジェスト」津村記久子 著

2021年8月14日土曜日

 最近読んだ小説「ワーカーズ・ダイジェスト」(津村記久子 著)
シビれる表現・文章が盛りだくさんだったので、感想を書き留めておこう。
【ネタバレ注意】
なお、この感想レポには、露骨には書いてないですが、ネタバレになってしまうことも含まれているかもしれませんので、
まだ読んでいない方はココでSTOPで。

「ワーカーズ・ダイジェスト」 津村記久子 著 集英社(2011年3月30日第1刷発行) 

【どんな話か、めちゃくちゃざっくりいうと・・・】

この作品では主人公は2人になるのかナ。
32歳の男女で、女性(奈加子)のほうは大阪のデザイン事務所勤務・副業でライター。
男性(重信)は東京の建設会社勤務で、大阪支社でも働いた経験あり。
年齢、苗字、誕生日が同じ。
二人とも社会人として仕事で忙しく、そして疲れてます。二人は仕事で知り合います。
そんな二人のそれぞれの仕事を軸とした日々で話が展開されています。
・・・という感じでしょうか(;'∀')


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【シビれる表現】

日々感じていることを見事に絶妙な表現で綴られている作品を見ると、
スゴ!!て思っちゃうンですよネ。
そんな表現がたくさん見られるのが「ワーカーズダイジェスト」ですネ。

作品の冒頭は、奈加子のの起床のシーン。
眠たい様や奈加子の置かれた状況(日々の仕事で大変疲れている、仕事に追われている)がすごくよく表現されていて、シビれます。
たとえば、奈加子が目覚まし時計のアラームを2つ設定する理由。スヌーズ的理由なのですが「八分に夢を見すぎだと自分でも思う。それだけのことをするには、だぶんあともう少しの時間が必要なのだ。それでも奈加子は、どうしてもアラームを七時五十三分だけにセットする気になれない。一つの時刻だけにセットして寝過ごすのが怖いし、二度寝の時間における夢うつつの境界がぼやける感覚が、寝床から起き上がることには必要だし、何より諦めてしまうのが怖いのだ。」(「ワーカーズ・ダイジェスト」単行本 集英社 2011年3月30日第1刷発行(以下、引用元の書籍は同じ)p7、9行~p8、1行)
他にもね、シビれる表現満載なので、本が付箋だらけになってしまうのョ。

奈加子が通勤で使う駐輪場の係員に関するくだりも、印象的だった。
こういう人っているよね~~~ていう感じ。
あの係員は、自分はイイ人だと思っているけど、客観的に見れば、うっすらとした表層部分しかイイ人と演じれてない人なのでは。
だから何か指摘されると逆切れみたいな反応するの。

で、次の節では、重信の朝がはじまります。
ひょっとして同一人物?というぐらい、奈加子の朝と似てます。

重信は通勤などでラジオの語学講座をよく聴いています。けど、真剣みは感じられないナ~て思ってたら。
それもそのはずというか、要するに、
ニュースだといろいろ考えちゃうし、音楽でもそのミュージシャンの人間関係とか国による流行とかいろいろ考えちゃって、頭の中がごちゃちごちゃしちゃうから、「しがらみのない語学講座」(P21 14行)を聴くようになったンだって。ナルホド。
実際にそういう人いるかもしれませんね。


【ストーリーをもとに想像しました】

気になる登場人物(主人公以外)は、
富田さん。
奈加子の職場の人で、仕事は総務、奈加子より12歳年上(ということは40代)、社歴は奈加子の方が2年先輩。
ということで、奈加子と富田さんは長年の付き合いで、富田さんも一緒のお昼の時間は気楽なものだったはずだが、最近奈加子に対する富田さんの態度がとげとげしくなってきた。女子社員4人いるうち、奈加子にだけつっかかってくる。たとえば奈加子が面白いと言った映画やテレビ番組について、くだらなかったと言ってきたり、奈加子が仕事で訪れた店があまりよくなかったというと、訳知り顔で見るからにわかるじゃないと言ってきたり・・・・・・

・・・ああ、何かそういうのヤだな~て思いますよね。居心地悪い感じ。
出会った当初からそんな感じだったら、奈加子と富田さんはそもそも相性が悪いンだろな、て思いますけどネ。

でも言ってくることにつっかかってくるレベルならまだマシだったのに、富田さんはやがて奈加子をほぼ無視するようになります。
奈加子は富田さんにそのようにふるまわれる理由がわかりません。

・・・というか、
富田さんはアラフォーぐらいなのに、プライベートでならまだしも、そのようなふるまいをするなんて子どもっぽくてびっくり仰天ですよネ。
というか、それぐらいの年齢であっても、職場でそういうことする人、現実の社会でもいるんでしょうか??
もしいるとしたら。そういう人がいるから働きずらい世の中なンだ、て思いマス。

で、作中には、イチ読者の私からしたら奈加子に対して反感抱いてしまう記述がないので、富田さんは嫌なキャラにしかうつりません。
・・・けど、視点を変えてみると少し印象が変わるかもしれない、と思って。

だって、これは奈加子視点で綴られた文章(物語)だから。
とは言っても、奈加子は客観的に見たとしてもすごく嫌な人間には思えないけど、
奈加子は仕事で手一杯で余裕がないのは一目瞭然なので、他人に配慮できていないところがあったのかもしれない、と。つまり知らないうちに富田さんに嫌われるようなことをしていた可能性があると。
でも物語を読む限り、奈加子は仕事をしっかりやっているようだし、他人に悪意ある攻撃をしているような人間でもなさそうだから、
たとえ知らず内に富田さんに対して嫌なふるまいをしてしまっていたとしても、それは大して責められるべきことではない気もする(この世に完ぺきな人間がいないように)。
けど、嫌なふるまいをされた側の富田さんにとっては、どれだけ奈加子が仕事で手いっぱいであっただろうが、無自覚であっただうが、それは富田さんにとって嫌な行為であるには変わりがない。
たとえば、奈加子が配慮せずしてしまった行動が、富田さんにとって致命的にイラつくことだったり、
一つ一つは致命的にイラつくことでなかったとしても、長年のつきあいのうちに積もり積もって・・・・・・。
それでも、富田さんも大人だから、奈加子に悪気がないのはわかっているし、奈加子が一生懸命仕事をしているのもわかっている。だからこれまではイラつきを発散させる必要が無かった。
ところが富田さんは39で年下男性と結婚し、うまくいっていると思いきや・・・実は家庭ではストレスがたまる状況になっているらしかった(ということも作中の後半で奈加子は知ることになる)。
なので、富田さんの元々奈加子に対する鬱屈とした思いというベースがあるうえに、近年の家庭でのストレスがトリガーとなって、奈加子に対する不愉快なふるまいにつながったのでは。
・・・・・・とか、想像しました。
でもね、仮にね、本当にそうであっても、やっぱ富田さんの奈加子に対するふるまいはとっても嫌な感じであるには変わりがありません。けど、富田さんが100%悪、というわけではない、ていう受け取り方もできるかもしれません。

・・・・・・いや、まてよ。
そもそも、奈加子に無自覚で配慮がないふるまいをされた云々よりも・・・・・・
奈加子は富田さんより12歳下。だけど、富田さんより会社では2年先輩であり、副業でライターをやるぐらい、奈加子は仕事をバリバリしてる(優秀なのかも?)。12歳って明らかに年の差を感じるほどの差です。なので、富田さんにとって奈加子は心のどこかではずっと気に食わなかったのかもしれない(というシンプルな話なのかもしれない)。でも、富田さんが自分自身で抑えきれないほどの家庭起因のストレスを抱える前までは、そのことに全く気付かず、もしくは気づいていても気づいていないふりなどをして、奈加子と平穏なコミュニケーションをとることができていた・・・・・・・と、これまた想像しました。


【シンプルに面白かったエピソード】

重信が工事現場の隣の家の奥さんに迫られるところ。
昼ドラみたいでめっちゃウケましたw
というかこの奥さん、粘着クレーマーの旦那さん(湯川)に負けず劣らずコワ、ですよね。悪女ですネw
想像するに、重信ってそこそこイイ男なんじゃないかとも思いました。
湯川が重信ターゲットに重信の会社へクレームを入れ続けた理由の根本は、同じ学校(中学?)に通っていた時代の頃のことに起因してそうだ、ということですが。
重信は湯川の名前をうっすら憶えていた程度だけど、湯川は重信に嫌がらせをするほど覚えていた。こういうパターンの関係性って実際ありそうですよネ・・・コワいわ(;゚Д゚)


【かっこいい大人二人の話です】

真摯に仕事に取り組んでいる奈加子と重信は、自立してる大人で、かっこいい。
・・・けど、現実社会を見てみても、仕事に振り回され過ぎることはあまり讃えてはならないと思いマス。
作中の奈加子と重信は結構ギリギリのラインで働いている気もするから(特に奈加子の朝はひどい)、それぞれの将来に不安を感じなくもない。ですが、二人がそれぞれ担う仕事って、この先軽くなるとも思えない。よくて同じか、それかやはり年を追うごとに荷重されていくか・・・・・・
そのための救いのエンディングだったのかナ。

私は作品や文章を読み取る力薄ですが、
これまで津村さんの作品数点読んできて感じることは、
主人公や脇役の感情がいろいろ渦巻いていることが書かれてはいるんだけど、
どこか淡々とした空気感が作品のほぼ全体を通してずっとあるというか。そしてなんかかっこいい。
なので、読みやすいし、また津村さんの作品を読みたくなる。

そういえば、作中に登場した「スパカツ」、うまそうだったナ~(^q^)
モデルってあるのかナ? やっぱ関西のお店?
スパカツといえば群馬・高崎の「シャンゴ」。
本作を読んでたら食べたくなったので、シャンゴ風スパゲッティをオマージュして作ってみました。

【オノウエさんの不在】

「ワーカーズダイジェスト」に収録されている短編「オノウエさんの不在」もヨカッタ~~。
こちらも一生懸命働く方々の話です。舞台はインフラ関係の学閥が強い会社。

コチラの主人公(サカマキ)も、なかなかイイ男なんだろな、て思いながら読みましたw
最後のシーンとか、こういうサラリーマン男子かっこええ~~~です。
で、主人公の同期(シカタ)は、サカマキよりはユーモアがあるキャラで、当初はちょっと嫌ですが、最終的には結構スキになってました。実は仕事できるヤツなんじゃないかと思いました。
しびれた表現は、
「こんなところで利口ぶってどうなる。シカタの希望はおそらく間違っている。けれどその希望の反対を行こうとする事実こそが、本当は間違っている。」(p187 2行-3行)


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